施設長挨拶

陽子線治療により、
多くのがん患者様に希望の光を

放射線治療は、放射線を体の外側(外部照射)や内側(内部照射)から当てることにより、がん細胞内のDNAにダメージを与え、がん細胞を破壊する治療法です。臓器を取り除くことなく治療ができるので、患者様の身体機能を温存できますし、がん細胞が脳や骨に転移してしまった場合にも、複数の方向から放射線を集中させて効果を高めることで、手術と比べて遜色のない結果を得ることができます。
従来の放射線治療の場合、がんの奥にある正常組織にも影響を与えることがありますが、放射線量のピークを人為的に調節できる陽子線は、放射線をがん細胞に集中できるため、ほかの細胞や臓器への影響を最小限に抑え、より高い効果が望めます。

その一方で、現在も多くの施設で使われている陽子線治療装置は、第1世代に相当し、がんの複雑な形状には対応できません。それを可能にしたのが第2世代にあたるスキャニング方式です。陽子線がん治療センターに導入したアメリカ・バリアン社製の最新の治療装置ProBeam360°は、第2世代よりもさらに複雑で精密な強度変調陽子線治療(IMPT)を実現し、スキャニング方式も大きく向上された、いわば第3世代の陽子線治療装置と言えます。私自身、長年にわたり陽子線治療に携わってきましたが、ProBeam360°は陽子線治療装置の究極の形であり、正常細胞に与える影響を減らすことができるため、治療実績も格段に上がることでしょう。

がん治療は症状によって複数の治療法を組み合わせることが少なくありませんが、陽子線治療は免疫治療とも相性がよいのも特筆すべき点です。
免疫治療に使われる免疫チェックポイント阻害剤は、心臓や肺にダメージを与えてしまう可能性が指摘されています。しかし正常な細胞や臓器への照射を最小限に抑えられる陽子線治療と併用すれば、そうした免疫治療の副作用を補うことができるでしょう。

陽子線治療においても、患者様ファーストの姿勢は欠かせません。当センターではProBeam360°などの最新鋭の治療装置を揃えるとともに、放射線治療の経験豊かな医師や技師、民間病院では希少な医学物理士などが一丸となり、万全な陽子線治療をご提供します。さらに中部国際医療センターにある33の診療科を横断する合同カンファレンスを重ねながら、患者様のために質の高い陽子線治療を提供して参ります。

なお、多くのメリットがある陽子線ですが、もっとも大切なのは患者様の治療後の生活、QOLまで考慮して治療することです。たとえば前立腺がんの場合、1回の陽子線量を多くして治療期間を短くするという選択肢もありますが、10年後の障害をいかに減らすかを考えるのであれば、1回の陽子線量を抑えて治療期間を延ばすべきでしょう。中部国際医療センターでは、患者様の状態に合った放射線、治療期間を精査した計画を立案し、治療後の経過を見ながら再発がないか、副作用がないかなどを外来診療でフォローしています。

最新鋭の機器とチーム医療を組み合わせた陽子線治療が、多くのがん患者様の希望の光となることを確信しています。

陽子線がん治療センター施設長

不破 信和

NOBUKAZU FUWA

1981年三重大学医学部卒業。医学博士。
愛知県がんセンター副院長をはじめ、南東北がん陽子線治療センター長、兵庫県立粒子線医療センター院長を歴任し、2021年より現職。放射線治療専門医。陽子線治療に10年以上の経験を持つ放射線治療の第一人者。



陽子線治療とは

Proton therapy

陽子線治療は、加速器で光速の70%まで加速した水素の原子核により、がん細胞のDNAを直接損傷することで、がん細胞への殺細胞効果を示します。従来の放射線治療はX線治療と呼ばれますが、これは波長の短い光であり、その仕組みは、水と反応して生じるフリーラジカル(対を成していない電子をもつ原子)がDNAを損傷させる、間接作用が中心となります。

X線治療と陽子線治療の最も大きな違いは、がん細胞に対する放射線の分布です。図1に示すように、X線治療の放射線は皮下数㎝の深さで最大となり徐々に減衰して行きますが、陽子線はある深さでエネルギーを放出することで、最大の線量をがん細胞に照射できます。これはブラッグ・ピークと称されますが、それより深い所では線量はゼロとなります。そのため、今までの放射線治療ではできなかった、「がんに放射線を集中的に集める」ことが可能になりました。

この陽子線の特性は、治療成績を上げるだけでなく、副作用を減らせることを意味します。また、同じ物理線量でも陽子線治療は殺細胞効果がX線治療の1.1〜1.2倍とされており、より高い治療効果が得られることが示されています。

これまで、肺がんや食道がん、肝臓がん、前立腺がんなど、多くのがんでは外科的手術で病変を取り除く手術治療が主役でした。その理由は、従来の放射線治療より手術の方が治療成績が優れていることが多かったからです。
陽子線治療の登場により、従来の概念は今後大きく変わることでしょう。

陽子線治療と重粒子線治療の違いは?

重粒子線治療とは、炭素イオン線治療のことを指すのが一般的です。陽子線はX線治療の1.1〜1.2倍効果が高いと述べましたが、重粒子線では2.5〜3倍効果が高いとされています。それが、重粒子線治療が「究極の放射線治療」と言われる理由です。
がんは正常組織の中に入り込む性質(浸潤)がありますが、治療効果が高いということは浸潤した周囲の正常組織にも害が及ぶことも考えられます。つまり、より重い障害が出る可能性があることを意味します。
がんの部位や種類により、最適な治療法は変わります。私たちは最適な治療が従来のX線治療ならそれを選択し、もし重粒子線治療の方が望ましいと判断した場合は、この治療が可能な施設にご紹介します。

陽子線治療の適応例
中部国際医療センターの目指す陽子線治療について

陽子線治療の対象 公的医療保険
陽子線治療の対象 先進医療

表1は保険収載となっている疾患、表2は先進医療の対象となっている疾患を示しています。今後、進行肺がんや食道がんなどが保険収載される可能性があり、多くの患者様が陽子線治療の恩恵を受けられるようになると考えます。

中部国際医療センターの陽子線がん治療センターは、国内では20番目の陽子線治療施設になります。当院ではアメリカ・バリアン社製の最新の装置ProBeam360°を導入し、従来の装置より小さなスポットサイズでのスキャニングが可能となりました。より腫瘍の形状に即した治療ができるため、理想的な放射線治療に近づいたと言ってよいでしょう。私達はこの「第3世代」とも言える装置を、本当に必要とされる領域のがん治療に十分活かしたいと考えています。

中部国際医療センターは33の診療科のある総合病院です。糖尿病、あるいは心臓、腎臓、肝臓などに問題を抱えていらっしゃる方への対応が可能です。また、治療後の後遺症(副作用)はある割合で起こりますが、後遺症に有効な高気圧酸素治療も可能です。後遺症はできるだけ避けたい病態ですが、高気圧酸素が可能な施設は多くありません。当院では、万が一の場合にもチーム医療で患者様をサポートいたします。

特設サイト
選択的動注併用放射線療法について

特設サイト 選択的動注併用放射線療法