がん治療について

がん治療は、手術、放射線治療、薬物療法(抗がん剤など)が3つの柱として挙げられます。 がんの種類と進行度などを踏まえて、それぞれの治療法を単独あるいは組み合わせて行うことが、標準的な治療法として推奨されています。
陽子線治療の特長
陽子線治療は放射線療法の一種で、水素の原子核である陽子を加速しエネルギーを高めてできる陽子線(粒子線)を照射する治療法です。従来は、X線やガンマ線という光子線を照射します。
一方、陽子線は、「設定した場所に到達したときに最大のエネルギーを放出して消失する」という特性を持っています。
そのため、病巣の深さや形状に合わせ、がん細胞の位置で止まるように照射を設定すれば、ピンポイントで集中的に治療することが可能です。

従来の放射線と陽子線の違い
従来の放射線では、がんの周辺にある正常細胞にも影響を与えてしまいますが、
陽子線はがんの形や大きさに合わせて、
がん病巣に最大のエネルギーを与えることができます。
X線治療

体の表面付近やがんの奥にある正常組織にも影習を与えてしまい、がん病巣には最大のエネルギーが当たりません。
従来の陽子線治療

正常組織への影響は最小瞑に抑えながら、がん病巣に最大のエネルギーを当てることができます。
当センターの陽子線治療
(強度変調陽子線治療)
アメリカ・バリアン社製「ProBeam360°」を導入し、
360度さまざまな方向から照射(三次元照射)することができます。
腫瘍の形状や大きさに合わせて精密に照射することができるスポットスキャニング法による強度変調陽子線治療を採用し、
治療ベッドも自由に動くため、より効率的な陽子線治療を可能にします。
アメリカ・バリアン社製
ProBeam360°
スポットスキャニング法による
強度変調陽子線治療
高線量の陽子線を約4ミリのビームで腫瘍の形状や大きさに合わせて照射。

最先端の集学的治療に対応
がんの治療には、手術・薬物療法・放射線治療など、さまざまな方法があります。
近年、こうした治療法の専門化や細分化が進む中で、複数の治療を組み合わせて行う「集学的治療」が注目されています。
医療データの蓄積により、治療法を単独で用いるよりも、患者さんの病状や進行度に応じて適切に組み合わせることで、
より高い効果が得られることが分かってきました。
集学的治療では、各分野の医療従事者がチームを組み、一人ひとりに最適な治療を話し合いながら進めていきます。
進行頭頸部がんに対する
動注療法との併用
動注療法とは、動脈にカテーテルを挿入し、抗がん剤を直接注入する治療法です。腫瘍に高濃度の薬剤を届けることで治療効果を高めつつ、全身に回る抗がん剤の量を減らすことができ、副作用の軽減にもつながります。陽子線治療と併用できるのは、関東以西では当院のみです。 とくに頭頸部がんでは「切らない治療」として注目され、舌を大きく切除する標準的な手術と比べても、機能を保ちながら治療を行える点で、患者さんの生活の質向上に大きく貢献しています。
通常は太ももの大腿動脈からカテーテルを挿入しますが、当院では施設長の不破医師が開発した「ECAS」という独自のシステムを導入しています。これは保険診療で、顔面近くの動脈から薬剤を注入することで、より高い精度での治療を可能にします。最近では当院にて、皮下に埋め込む小型のポートを頭頸部がんに対して世界で初めて使用。これにより出血や感染症のリスクが低減し、入院が必要なECAS方式に比べ、通院での治療が可能となるため、患者さんの負担を大きく軽減しています。 動注療法について詳しく見る >

温熱療法(ハイパーサーミア)・
高気圧酸素療法との併用
「温熱療法(ハイパーサーミア)」は、電磁波や高周波エネルギーで病変部を温め、がん細胞が約42.5℃を超えると死滅しやすい特性を利用する治療法です。正常細胞は熱が加わると血液が巡回して熱を下げる作用を持ちますが、腫瘍細胞は血管が脆弱で熱を放散できません。この温度差によってがん細胞が死滅する効果が期待できます。一般的に43℃以上で1~2時間温めると細胞死が起こるとされています。また、39~42°でも血流増加により抗がん剤が腫瘍内へより入りやすくなり、抗がん剤の効果が高まることが期待できます。

昨今は温熱療法を陽子線や抗がん剤と併用することで、治療効果が高まる可能性があると注目されています。温熱療法は民間療法とは異なり、歴史が古く、しっかりとした医学的根拠がある治療法です。難治性とされる膵がんに対しては、抗がん剤や放射線治療と温熱療法を併用することで、生存率が延びたとの報告があります。温熱療法と放射線治療との併用は、腫瘍が大きくなるにつれて血流が滞りやすくなり、冷却効果が減って温度が上がりやすくなることから、大きな腫瘍(進行乳がん、肉腫など)に特に効果が高いとされています。肉腫は陽子線治療が保険適用となっていますので、温熱療法と併用することにより大きな効果が期待できます。
「高気圧酸素療法」は、2〜2.5気圧の装置内で100%の酸素を吸入する治療法です。血液中の酸素量を増加させ、障害組織の再生促進や炎症の鎮静化を促します。減圧症・末梢循環不全・感染症等に対して用いられますが、がん治療にも有効です。

どのがんも内部は低酸素状態にあり、環境が悪化するとがん細胞は活性化しますが、例えば膵がんの場合、正常な膵臓と比べて腫瘍細胞内では酸素濃度が数%以下しかありません。このような低酸素状態では、がん細胞は血管を増やしたり、別の場所に広がろうとしたりする作用を持つ因子を活発化させることがあります。高気圧酸素療法により、このようながん細胞の内部環境を元に戻すことで、再発防止などに繋げられます。また、酸素濃度が高いほど放射線治療の効果は高まるため、この療法を行った後に放射線治療を組み合わせることで、さらなる治療効果が得られます。同様に化学療法においても、がん細胞を酸素化することで効果が高まる可能性があるとされています。
また高気圧酸素療法は、放射線治療後の晩期障害軽減にも有効で、放射線性直腸炎による出血や顎骨壊死に対し、創傷治癒効果で修復を促す目的でも使用しています。 がん治療の効果が上がるだけでなく、障害の軽減にも効果的な方法です。

当院では、抗がん剤・温熱療法・高気圧酸素療法・陽子線治療という4つの治療を組み合わせられる、全国でも数少ない体制を整えています。膵がんに加え、治療が困難とされる肉腫などにも温熱療法や高気圧酸素療法を組み合わせ、患者さん一人ひとりに最適な治療を提供できるよう努めています。